川添 裕
Yu Kawazoe

Waves on the Net 7
XMLの可能性と新リンク機能


この原稿は、もともと平凡社発行の雑誌『月刊百科』に「インターネットニューウェイブ」のタイトルで掲載したものです。改訂を加えてinternet versionとします。

 以前,Waves on the Net 6 で,World Wide Webのための新しい文書記述言語であるXML(eXtensible Markup Language)にふれ,それがHTMLに代わり,また,高機能だが余りに煩雑なために普及しなかったSGMLと異なり,今後のインターネットのコミュニケーションを確実に左右する,きわめて重要な新技術であることを述べた.

 それは出版の世界にとっても,表現の形式上の多様性を支えるとともに,ウェブならではの新たな表現の可能性を拓く,意味の大きい新技術であるといえるだろう.

開発・実装も早そう

 ところで,こうした技術は具体的に実装されなければ(例えば単純に,誰もが使えるXML対応のブラウザーや,エディター,コンバーター,DTD作成ツール,データベース,サーバーなど種々のツールが製品化されなければ),社会的な意味を現実に持ち得ないわけだが,すでにAdobe社,Microsoft社,Netscape Communications社,Sun Microsystems社といった錚々たる企業が競って開発・実装に取り組んでおり,実用化の点でも,展開は相当に早そうである.

 もっとも,従来のSGML市場に消極的だった各社が,きわめて積極的にXML市場には参入しつつある状況を考えると,安価なツールが短期間で登場しそうな反面,主導権争いからくる「仕様逸脱・独自拡張」による混乱もあらかじめ予想されるところで,これは何としても,統一仕様を維持して欲しいものである.

新リンク機能

 さて,じつはXMLをベースとするアプリケーションとしては,その仕様を一部,先取りするかたちで,いわゆる「プッシュ型」として注目されているCDF(Channel Definition Format)を用いたウェブキャスティングや,OSD(Open Software Design)を用いたソフトウェアの自動更新がすでに実用化されており,それなりに興味深い技術ではあるのだが,筆者としてはここで,XMLの新リンク機能の方に注目してみたい.

 XML文書のリンク機能は,正確にいうとXLL(eXtensible Linking Language)によって規定されるが(その後、結局、XLink/XPointerというペア規格のかたちで制定された。最新の仕様はW3Cのページを参照),これはHTMLが持つリンク機能をぐっと発展させ,ハイパーテキストに関する近年の研究成果をふんだんに盛り込んだものとなっている.

 旧来のリンク機能を含みこんだ上で,ここで新たに加わった機能は,1・アンカータグ(A HREF=)だけでなくどの要素からもリンクを表現できる,2・リンクの処理の仕方を一律でなくさまざまに指定できる,3・リンク(場所)とリソース(内容)を分離できる,4・一つのリンクが三つ以上のリソースを持つことができる,5・XML文書のどの要素でもそのままリソースとして扱うことができる,6・双方向リンクを記述できる,である.それぞれをかみくだいて説明することは,短い文章のなかでは到底,不可能だが,簡単な一例だけあげれば,ウェブ上にあるA社のA文書をリンク元リソースとし,B社のB文書をリンク先リソースとするリンクを,第三者のC文書に作成することができ,しかもさまざまな処理を指定して記述することができるのである.リンクというと場所から場所へのリンクだけをひとはイメージしがちだが,これはいわば「機能リンク」「複合処理リンク」を多様に含むものである.

 ウェブでのデータベース利用だけを考えてみても,明らかに新次元を拓くものであり,種々の検索のあり方はもちろん,以前ふれた「電子図書館」の基本仕様や各種メディアでの情報提供,そして,われわれの日常生活のさまざまな場面にも貢献しうる,新技術といえる.

 今後,XMLがどんなふうに展開していくのか,楽しみに見守りたい.なお,関心のある方への参考書としては,XMLの仕様制定にも参加した村田真氏編の『XML入門』(日本経済新聞社,1998)と,XML/SGMLサロン著『標準XML完全解説』(技術評論社,1998)をまずおすすめしたい.ともに全体の構成がしっかりした,わかりやすく丁寧な本である.ウェブページでは,前回紹介した以外にThe SGML/XML Web Pageが内容の充実したページである.

最終更新=Sun, 19-July-1998、初稿=Thur, 16-Apr-1998

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