川添 裕
Yu Kawazoe

Waves on the Net 2
本を探す


この原稿は、もともと平凡社発行の雑誌『月刊百科』に「インターネットニューウェイブ」のタイトルで掲載したものです。改訂を加えてinternet versionとします。

 書店へ本を探しに行ったが見つけられなかった,本の広告を目にしたのだけれど記憶が曖昧になってしまった,そんな経験は誰にもあるに違いない.今や年間の出版点数だけで6万数千点(1996年)に及び,在庫のある流通可能点数は54万点(1997年10月推計),これに品切本や絶版本も加わるわけだから,探索の対象となる全体の点数は,文字通り想像を絶する数字となる.はたしてインターネットの検索は,この事態にどう対処しているのか,流通書籍を中心に現状をみることにしよう.

早急な改善を期待したいBooks.or.jp

 1997年9月9日,日本書籍出版協会のホームページで,日本書籍総目録のオンライン提供が始まった。これは従来,本のかたちで販売していた『日本書籍総目録』(1997年版は全4冊,定価55000円)をオンライン化したもので,検索の対象となるのは,原則的に1996年12月までに刊行された在庫のある書籍で,以降1997年6月までの刊行分は「これから出る本」のデータで補い,総計で53万点(スタート時点)という.基本的に冊子体をオンライン化するという古い発想から始まったためか,新たに刊行される書籍データが日々アップデートされない,本の解説が一切ないなど多くの問題点はあるが,点数は多いので,一定の役に立つことは間違いない.

 インターネットらしい工夫は,各出版社のホームページと「検索リンク」を張ったことで,これはISBNコードをキーにして,各出版社のホームページ・データと書目毎にリンクを張る仕掛けである.先にふれたように,もともと『日本書籍総目録』には内容説明が一切掲載されていないので,これにより,解説などの詳しい情報は各出版社のホームページに任せるという方式である.確かに最新の情報はつねに出版社の側にあるわけだが,現実には,各社がホームページを持ち,かつ全出版物が基本的にはデータベース掲載されていることが前提となるため,結局,スタート時点でこれに対応可能なホームページへの取り組みをみせていた出版社は,平凡社,朝倉書店,小学館,農山漁村文化協会,森北出版ほか11社にとどまった(1998年6月19日時点では31社になっている).

 非協会加盟社を含め,まだホームページを持たない出版社が数千あることを考えると,道のりは遥かに遠いし,そもそも最新情報が掲載されない協会ページ自体の欠陥は,早急に改善の必要があろう.これでは,せっかく出版社のホームページに最新刊の情報がのっていても,カタツムリ更新の協会ページで検索すると「該当なし」となってしまい,このページを見たがために,読者が本にたどりつけなくなるからである.

より優れたTRCと紀伊國屋書店

 この協会ページより優れているのがTRCのホームページで,1980年以降に刊行の約68万点が検索できるだけでなく,ここ数年の新刊はほとんど解説つき表紙画像つきで掲載され,「今日の新刊」や「週間新刊案内」なども完備されている.こちらもすでに多くの出版社と「検索リンク」をおこなっており(1998年6月19日時点では15社),出版社とのデータ交換にも積極的な姿勢を見せている.

 このほか,紀伊國屋書店ホームページの「国内和書」検索コーナーも役立つことが多い.こちらもホームページへの取り組みにはかなり意欲的である.

 ところで,流通書籍の「情報」はこうして把握可能だが,いわゆる「大規模書店」の常置点数が約10万点であることを考えると,絶対多数の本は書店にないことになる.本へと至る迷路はさらに長く続くようである.

 

付記1−1998年6月19日時点で,Books.or.jpページが発足時に抱えていた問題点はまったく改善されていない.この問題についての危惧は,発足時点の説明会でも出版社の側から強く表明されていたが,返答は「各出版社の側がデータベース作りを頑張ってくれ」という意味不明のものであった.当時すでに,新刊データの毎日更新を自社サイトで行っている出版社が何社もあったわけだから,頑張らなければいけないのは,明らかにBooks.or.jpの側である.出版社にとっても,著作者にとっても,そしてもちろん読者にとっても,新たな購読の過半を占める新刊が,現に出版されているにもかかわらず,この検索で「該当なし」となってしまうことは重大な問題である.付記執筆時点では,ちょうど丸1年分の最新刊が欠落していることになる.文字通り「早急な革新」を期待したい.

 

付記2−その後ようやく,出版社側の最新情報で更新していくという方向性が示された.ただし,1998年7月19日時点ではまだ実行されていない.実行されたとしても,本の解説(紹介文)をどうするのか,書協非加盟の数千の出版社をどうするのかなど,まだまだ前途は険しい.オープンなかたちでよく基本仕様を練ることをせずに,陥るべくして「穴」にはまってしまっているのは,残念というほかない.

最終更新=Sun, 19-July-1998、初稿=Fri, 17-Oct-1997

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