見世物絵の世界へようこそ
川添裕
見世物絵とは
浮世絵のなかに「見世物絵」と呼ばれるジャンルがある。それは江戸時代におこなわれた見世物の興行を描いた浮世絵のことで、描かれた見世物の種類は、1 軽業や足芸などの曲芸、2籠細工や貝細工などの細工見世物、3ゾウやトラやラクダなどの動物見世物に大別される。ここでは、これらを順を追って簡単に紹介しよう。
曲芸
一般には余り知られていないことだが、江戸時代の日本の曲芸のレベルはきわめて高いものであった。たとえば、幕末期に活躍した人気軽業師・早竹虎吉(図1、図2)などは、アメリカに渡って各地で興行し大いに話題を呼んでいる。幕末期にはこの早竹虎吉をはじめ、足芸の浪花亀吉、曲独楽の竹沢藤次、曲馬の樋口弥多丸など優れた芸人が多くあらわれている。
かれらを描いた浮世絵の図柄を見ていると、その曲芸の演題あるいは趣向として、伝説や伝承のかたちで誰もが身近に知っている物語や人物が置かれ、下敷きにされていたことがわかる。歌舞伎の演目と共通するものも多く、こうした既成の芸能的趣向も含め、これらを近世の都市庶民が持つ〈民俗的文脈〉と呼ぶことができるが、曲芸の興行は、つねにこの文脈と豊かな関係を取り結びながらおこなわれていた。軽業の身体運動はそれだけで人をはっとさせる力を持つ。しかし、観客にとっての魅力は、その運動がどのような文脈に置かれるかという、両者が交差する地点にあったことが伝わってくる。
細工見世物

図1、図2